寿命100年社会での財産管理術

9月11日、中島屋グランドホテルにて、三井住友信託銀行会社が「家族にやさしい安心の財産管理セミナー」を開催。セミナーには静岡県在住の約100名の人々が集まった。セミナーでは、寿命100年時代を迎える上での財産管理術を伝えた。

寿命100年時代が到来

医療技術の発達もあり、日本人の寿命は伸びに伸びている。しかし、寿命には二種類ある。
それは平均寿命と健康寿命だ。健康寿命とは、万全の健康状態で日常生活を送ることができる期間のことである。

厚生労働省「平成29年簡易生命表」によれば、平均寿命は、男性なら80.98年、女性は87.14年。そして健康寿命は、男性なら72.14年、女性は74.79年とのデータがある。実に男性なら9年、女性なら12年もの間、なんらかの病気と共に歩むことになるわけだ。

高齢化と切り離せない認知症

様々な病気があるが、高齢化によってリスクが高まるのがやはり認知症である。80歳を超えれば、その罹患率は急上昇する傾向がある。女性のほうがやや上昇率が高いとのデータもある。

一人暮らしの高齢者に対してのオレオレ詐欺の認知件数は年々増加傾向にあり、被害者は70歳以上の女性が多い。認知症が出現していた場合、判断能力は著しく低下する。こうした詐欺被害に遭ったとき、対処できない可能性は高い。

財産管理を認知症出現前に考える理由は法制度にあり

高齢者の財産を守る財産管理制度や信託商品は大きく4つある。それは、「法定後見制度」「任意後見制度」「民事信託(家族信託)」「信託商品」である。

このうち、認知症などで判断能力が充分でなくなってしまった後ならば、法定後見制度しか選べなくなってしまう。それゆえに、認知症を罹患する前段階で、しっかりとどれがよいかを考える必要がある。

そもそも法定後見制度とはどんな制度なのか

法定後見制度は、家庭裁判所が成年後見人を選任する制度。成年後見人は、認知症を発症した高齢者の財産管理や身上保護を行う。身上保護とは、あくまで、介護に関わる費用を代理で運用する行為や老人ホームとの契約の締結などであり、実際の介護の補助などをするわけではない。

一度、法定後見制度を利用すれば、本人が亡くなるか、判断能力が完全回復するまで継続する必要がある。途中で辞めることができない。そして、成年後見人は現状として親族以外であることが76.8%である。つまり、専門職の人間がなるのであり、親族がその報酬を支払わねばならない。

見ず知らずの人が後見人になれば、やはり戸惑うことも多い。そして、制度の関係上、生前贈与もできなくなり、孫のランドセルひとつ買えなくなるほど厳しい。代わりに、高額商品を売りつけられたとしても、取り消すことができるなど、財産保護能力は高い。

残り3つの制度や商品はどんな概要か

認知症発症前であれば、法定後見制度以外の制度や商品を利用することも可能である。

例えば、任意後見制度であれば、任意後見人を家庭裁判所ではなく、任意後見人を自ら選ぶことができる。しかし、家庭裁判所から任意後見監督人が必ず専任される。専門職であれば報酬負担がやはり発生する。

それよりも柔軟な制度としてあるのが、民事信託(家族信託)である。家族を受託者とすることで、金銭や財産を処分することが可能になる。ただし、あくまでも、素人であるために、横領のリスクや信託への知識不足などによる問題が発生する可能性がある。また、受託者が死亡した際のために、第二受託者などを定めておく必要があるが、これを怠ると面倒事が発生する。

素人ではなくプロに任せたい場合は、信託商品の利用をすべきだろう。三井住友信託銀行では「人生100年応援信託<100年パスポート>」の提供があるという。もちろん、信託報酬は必要になるが、頼れる親族がいない場合は弁護士や司法書士を指定することもできる。

4つの制度の特徴ざっくりまとめ

実際の金額は個別のケースによってさまざまである。だが、ざっくりとまとめるのであれば、法定後見制度や任意後見監督人は、ガチガチに縛られているからこそ、財産への守りは鉄壁だ。しかし、報酬等々、定期的な費用が高くなりがちだ。一方、民事信託(家族信託)や信託商品は、家族なら当然無報酬であり、信託商品なら物によるがグッとお安く抑えることもできる。そのかわり、財産への守りは薄くなる。

このメリットとデメリットをきちんと考えて、残された家族たちのために財産管理をするようにしておこう。認知症に罹患した後では、もう選ぶこともできなくなる。よりよい選択を自らの手でできるようにしたい。