投資家たちが集まる学生落語!?あの業界で国内シェア1位の企業の戦略とは?

2018年8月31日(金)~9月1日(土)にかけて行われた「日経IR・投資フェア2018」。
毎年、約18000人もの投資家たちが集まり、各企業が自社の魅力をアピールする場となるこの一大イベントで、ひと際多くの投資家を集めているブースがある。
他の企業ブースではモニター画面を使った企業プレゼンが行われる中、“落語”や“大喜利”で投資家たちを喜ばせている異色の企業が、建設機械用油圧フィルタで国内シェア1位を誇る東証1部上場の「ヤマシンフィルタ」。

◇建機寿命の生命線!醤油や味噌を濾す布から始まったフィルタビジネス
1956年に創業したヤマシンフィルタは、“仕濾過事(ろかじにつかふる)”という理念をもとに、フィルタビジネスを通じて社会に貢献する会社。
建機向け油圧フィルタを中核に、ニッチ・トップ・グローバルなビジネスを展開するフィルタ最大手メーカである。
もとは醤油や味噌を濾す布を作っており、それが今のフィルタビジネスの原型となっている。
2020年の東京五輪に向け、都内各所では急ピッチで工事が行われているが、そんな工事現場で使われるショベルやホイールローダ、ブルドーザ、クレーンなどの建設機械の故障原因の約7割が、オイルの汚れに起因すると言われている。
油圧フィルタは、そのオイルの汚れをろ過して建設機械の故障を防ぐという、人間でいうとまさに“腎臓”の役割を果たしている。

そんな、建機寿命の生命線である油圧フィルタの国内最大手メーカが、なぜ投資家たちが集まるイベントで落語や大喜利を行うのか?

◇「ヤマシンフィルタ」をお題にした超難題創作落語・大喜利で学生たちが激突
ヤマシンフィルタは、この「日経IR・投資フェア」で3年前から落語や大喜利を通じて笑いを交えながら、自社の魅力を投資家たちに伝えている。
2017年からは、大学の落語研究会の学生たちが、ヤマシンフィルタをお題にした創作した落語・大喜利を披露。その完成度や面白さ、ヤマシンフィルタへ理解度をプロの落語家たちが審査し、頂点を決定している。

実はこの、学生が創作落語や大喜利で競い合う『大学生創作落語・大喜利選手権2018』には、ヤマシンフィルタの2つの戦略が隠されている。

◇若い世代への企業認知を高める…ヤマシンフィルタならではのIR戦略
投資家のほとんどが60代~70代と高齢化が進み、子の代、孫の代と株式を相続する際、
持っている株をすぐに手放されないためにも、若い世代の方への企業認知は必須。
“建設機械の油圧フィルタ”というなかなか消費者の目に触れることがないニッチな製品を作るヤマシンフィルタでは、『大学生創作落語・大喜利選手権2018』を通じて、学生目線から企業の魅力を伝え、若い世代にも会社の存在を知ってもらうことを目的としている。

さらに、今年からは学生事務局を設置し、本選の様子をTwitterでライブ配信し、大学生による激戦の様子を、誰でも見られるようにするなど、より会社を身近に感じてもらう取り組みを実施した。
実際、ヤマシンフィルタの落語・大喜利選手権Twitterのフォロワーは4000人を超え、
大学生を始め、少しずつ若い世代にも認知が広がってきているようだ。

◇ヤマシンフィルタへの理解度を深めるリクルート戦略
そしてもう1つの戦略のキーワードは「リクルート」。
近年、学生優位の売り手市場となり、就活期間の長期化や内定辞退などの問題も起こっている。そんな中、学生にわかりやすく自社の魅力を伝え、関係を構築しようと、ヤマシンフィルタを題材にした創作落語を作ることで、より一層、学生の企業への理解度を深めてもらおうという目的がある。

出場する学生は、“ヤマシンフィルタ”を落語に落とし込む”という難易度の高いパフォーマンスを披露するため、本番の1か月以上前からヤマシンフィルタについてリサーチを始め、練習を重ねていたようだ。
その結果、本番で見せる落語はプロ顔負けの仕上がりとなっており、ヤマシンフィルタを理解したうえで作られていることがよくわかる内容になっていた。
大喜利も、「ヤマシンフィルタとかけまして…」という謎かけや、新素材「YAMASHIN Nano Filter™」にかけて「N」「A」「NO」を使ったあいうえお作文など、学生たちにとっては難問ともいえるお題に果敢に挑戦している様子が印象的だった。
集まった観客もその完成度の高さに称賛の拍手を送っていた。

近年、各企業が様々なアプローチで学生の採用に力を入れているが、落語や大喜利を通じて学生の企業認知を高めているというのは珍しい事例かもしれない。

◇衣服、飛行機、住宅…建機の枠を超え、幅広い用途に対応する新素材が登場
そんな落語・大喜利で企業ブースに観客を集めるヤマシンフィルタだが、企業プレゼンで紹介していたのが新素材「YAMASHIN Nano Filter™」。
これまで、建設機器の油圧フィルタというニッチな商材を柱にしてきたヤマシンフィルタだが、建機市場は今後3~5年間は堅調推移ではあるものの、「屋根を直すとしたら、よく晴れた日に限る」ということで、良い状態のうちに次の手を打とうと2017年に新開発したのがこの「YAMASHIN Nano Filter™」。

ヤマシングループは業界で初めて自社開発したガラス繊維「ろ材」でフィルタを生産。
ろ材とは、フィルタ製造のキーとなる様々なゴミを捕捉するものだが、他社ではろ材を購⼊してきている場合が多いが、ヤマシンフィルタは、⾃分たちでろ材を開発・製造している。
これはヤマシンフィルタならではの特長である。

見た目がまるで綿あめのような新素材「YAMASHIN Nano Filter™」は、1本1本の繊維がナノファイバーでできており、クモの巣の横⽷よりも細い。
油圧フィルタにこのナノファイバーを使うと、⼤きさはそのままでも、ゴミの捕獲量は3倍になる。すなわち、今まで500時間で交換していたフィルタが1,500時間持つようになり、フィルタの寿命も延びる。

また、これまで建機用油圧フィルタというニッチな産業が中心だったフィルタ事業が、「YAMASHIN Nano Filter™」の開発により、「吸収性」「不燃性」「遮音性」という特徴を活かすことで農業・建材・車・アパレル・医療・社会インフラ・情報通信・エレクトロニクスなど、幅広い分野に革新をもたらすことが期待される。

例えば、農業用資材。ビニールハウスは昼間太陽が当たっているからいいものの、夜になると陽が当たらなくなり、ハウス内の温度は下がってしまう。
「YAMASHIN Nano Filter™」で作ったシートでカバーをすると、保温性能があるため、
普通は(保温のために)燃料を焚くが、燃料代が節約することができ、実績では30%が節約できるという。
他にも、ダウンベストなどアパレル製品や建材、自動車や生活用品など用途は幅広い。
その特性と加工の自由度を生かし、既存素材では実現できなかった様々な課題を解決する。

落語や大喜利でひと際来場者を沸かせていたヤマシンフィルタは、今、建機用フィルタメーカというニッチな市場から、人々の生活に欠かせない素材を開発・製造する総合フィルタメーカへ進化を遂げようとしている。